ローコスト住宅の耐震性は大丈夫?コストを抑えつつ安心して暮らすためにできること

マイホームを早く手に入れたい、できるだけ費用を抑えて家を建てたい。そんな思いから若い世代や子育て世帯を中心に、ローコスト住宅を検討する人が増えています。

一方で、気になるのが「安さゆえの不安」です。特に日本のように地震が多い国では「耐震性は問題ないのか」「自然災害に弱いのではないか」と心配になる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、ローコスト住宅の耐震性について、寿命や耐震基準、耐震性を高めるための対策を解説します。コストを抑えつつ、安心して長く住める家を選ぶヒントを、ぜひチェックしてみてください。

ローコスト住宅の寿命は短い?

ローコスト住宅は「寿命が短い」というイメージを持たれがちですが、これは一概に正しいとは言えません。価格を抑えたからといって、必ずしも耐震性や耐久性が犠牲になるわけではないからです。

近年では、耐久性に配慮された設計や建材が主流となっており、住宅の長寿命化に向けた取り組みが各方面で進められています。実際に、長期優良住宅制度の普及により、60年、70年と住み継がれる住宅も増えつつあります。

仕様や構造によって寿命に差が出るのは、ローコスト住宅に限らず、すべての住宅に共通します。ローコスト住宅でも、耐久性の高い建材を選定し、定期的な点検やメンテナンスを行えば、平均以上の寿命を実現できます。

※参考:林野庁「第1部 特集2 第2節 建築分野における木材利用の動向(1)」

日本の住宅の平均寿命

日本の住宅は、平均築後経過年数が約30年と、諸外国(イギリス:約77年、アメリカ:約55年)に比べると短命です。これは、住宅そのものの寿命が短いのではなく、新築志向の強い日本の文化に起因しており、まだ住めるのに解体される住宅は多く存在しています。

しかし、近年は中古住宅やリノベーションに関心を持つ人が増えており、住宅選びの価値観が多様化している傾向が見られます。さらに、長期優良住宅制度や高耐久建材の普及により、住宅そのものの性能も年々上昇中です。

つまり、住宅の寿命は「価格帯」で決まるものではありません。価値観の変化と住宅の質の向上によって、ローコスト住宅でも長寿命が期待できる時代になっていると言えるでしょう。

※参照:国土交通省「長持ち住宅の手引き」
※参考:訳あり物件買取プロ「【中古住宅の購入はあり?】男女500人アンケート調査」

ローコスト住宅でも50年以上住める

住宅は設計と管理が適切であれば、50年以上の居住に耐える強度や性能を備えられます。それは、ローコスト住宅においても例外ではありません。

たとえば、木造住宅の法定耐用年数は22年とされていますが、これは税務上の減価償却のための数字であり、実際の寿命とは一致しないケースが多いです。

【構造と法定耐用年数】

構造法定耐用年数
木造22年
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材の肉厚が3mm以下)19年
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材の肉厚が3mm超~4mm以下)27年
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材の肉厚が4mm超)34年
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造47年

※参照:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

また、国土交通省の資料によると、木造住宅の期待耐用年数は以下とされています。

・劣化対策等級2(フラット35基準):50~60年
・劣化対策等級3:75~90年
・長期優良住宅(等級3+メンテナンス計画):100年以上

※劣化対策等級:住宅の構造部材がどれくらい長く使えるように設計されているかを示す指標で、等級が高いほど耐久性に優れた建物であることを意味します。
※参照:国土交通省「期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について」P12

木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など、歴史的建造物や都市のランドマークの多くは、建設から数十年、あるいは100年以上を経た今でも現存しています。設計や管理体制をしっかり整えれば、ローコスト住宅であっても法定耐用年数や期待耐用年数を超えて住めるのです。

ローコスト住宅の耐震性の基準

住宅の耐震性は「耐震等級」で評価されます。建物がどの程度の地震に耐えられるかを数値で示したもので、住宅性能表示制度に基づいて定められています。

耐震等級には以下の3段階があります。

耐震等級基準となる耐震性能
等級1建築基準法で定める最低限の耐震性(震度6強程度に耐える)
等級2等級1の1.25倍の強度(主に学校・病院レベルの強さ)
等級3等級1の1.5倍の強度(消防署・警察署など防災拠点に相当)

ローコスト住宅でも、この耐震等級の取得は可能です。たとえば、木造2階建てのシンプルな設計であれば、構造上の工夫によってコストを抑えつつ耐震等級2以上を実現するケースもあります。

実際に、耐震等級2以上を標準仕様としているローコスト系メーカーも存在しており、コストを抑えながらも安心して暮らせる住まいづくりが進んでいます。

ローコスト住宅の耐震性を高めるための対策

ローコスト住宅でも、構造や施工内容を工夫すれば耐震性を高められます。以下に代表的な4つの具体策を紹介します。

・地盤調査
・構造計算
・建材の選定
・制振装置の導入

地盤調査

どれほど強固な構造の住宅でも、軟弱な地盤の上に建てられていては意味がありません。ローコスト住宅であっても、必ず事前に「地盤調査」を実施し、その結果に基づいた地盤改良を行う必要があります。

代表的な地盤調査方法特徴
スウェーデン式サウンディング試験一般的な戸建て住宅で使われる。コストが低く簡便。
ボーリング調査中層・高層向け。地層や水位まで詳細に把握できる。

地盤調査によって「軟弱地盤」と診断された場合は、次のような地盤改良工事を実施します。

代表的な地盤改良工事特徴
表層改良工法軟弱な地盤の表面層(深さ2m程度)にセメント系固化材を混ぜて土を固める。施工が簡単でコストが安い。
柱状改良工法地中に円柱状の柱(セメントミルク)を造成し、住宅の荷重を支持させる方法。中程度の地耐力に適している。
鋼管杭工法鋼製の杭を硬い支持層まで打ち込む方式。支持力が高く、狭小地や地盤が深く弱い土地にも対応可能。

調査結果をもとに適切な改良を行えば、地盤沈下や傾きによる倒壊リスクを大幅に低減できます。地盤補強は一見地味ですが、耐震性の土台そのものを支える重要な工程です。

構造計算

構造計算とは、地震や風などの外力に対して住宅が安全に耐えられるよう、力の流れや建物の変形を数値でシミュレーションする作業です。ローコスト住宅でも、施主の希望により構造計算を実施できます。柱の太さや耐力壁の配置などを最適化すれば、耐震等級2〜3の取得も可能になります。

▼構造計算の主なチェック項目

・耐力壁の量と配置バランス(偏りがあると倒壊リスク増)

・筋交いと接合金物の配置・強度

・基礎と柱の固定方法(引き抜き防止対策)

計算対象内容の概要
壁量計算地震力に対して必要な耐力壁の面積を計算
偏心率の検討建物のバランスが取れているか(ねじれ対策)
床倍率・剛性水平方向の力を分散させる床の強度や構造の確認

耐震性は設計段階で決まるといっても過言ではありません。コストは増えるかもしれませんが、それ以上の「安心」を得られる投資といえるでしょう。

建材の選定

耐震性を高めるうえで、建材の選定は設計と同じくらい大切です。建物に使われる柱や梁、接合金物などは、地震の揺れを受け止め、力を逃がすための“骨組みの質”を左右する要素になります。

以下は、耐震性能を向上させる代表的な建材とその特徴です。

建材特徴と効果
集成材均一な強度と高い寸法安定性を持ち、反りや割れに強い
構造用合板壁倍率が高く、壁全体の強度を高める
モイス、ダイライト等高耐震・防火性を備えた構造用パネル
ガルバリウム鋼板軽量で屋根・外壁に使われる。建物全体の重心を下げ揺れを軽減
接合金物柱・梁・筋交いの結合部を強化し、倒壊の引き金となる「抜け」「ズレ」を防止

住宅の耐震性を左右する建材の選定は、ほとんどの場合、施工会社側がプランとして提示する仕様に基づいて決まります。

▼施工会社選びで押さえておきたいポイント 

着眼点チェックの仕方・確認内容
標準仕様の建材グレード耐力壁に高倍率の構造用合板や、接合部に耐震金物を採用しているか
耐震等級への対応耐震等級2以上の取得実績があるか/構造計算を行っているか
使用建材の公開・説明姿勢採用している建材をカタログやホームページで明示しているか、質問に丁寧に答えるか
オプションの柔軟性性能アップのための建材変更に柔軟に対応できるか
アフターサービスと保証制度接合部や構造材に関する保証内容が含まれているか

構造部分にしっかり投資できる会社を選べば、ローコスト住宅でも耐震性の高い家づくりが実現できるでしょう。

制振装置の導入

地震対策の一つとして注目されているのが、揺れのエネルギーを吸収・低減する「制振装置」です。建物自体の強度だけに頼らず、揺れを抑える仕組みを加えれば、繰り返しの余震や大地震にも粘り強く対応できます。

▼制振装置の種類と特徴

装置タイプ特徴・適用例
オイルダンパー油の粘性でエネルギーを吸収。大手メーカー住宅でも多く採用
金属ダンパー鉄や鉛などの変形を利用。高耐久でメンテナンス性も良好
ゴム系ダンパー弾力性のあるゴム素材が揺れを緩和。木造住宅にも適用しやすい

最近では、ローコスト住宅でも制振装置を標準またはオプションで採用できるケースが増えており、後付けリフォームにも対応可能な製品もあります。将来的な導入を検討する場合は、新築時に一度相談しておくとより安心です。

耐震性に関する実際のデータ

実際の耐震実験や地震被害のデータでは、設計と施工が適切であれば高い耐震性能を発揮できることが明らかになりました。

たとえば、耐震等級3相当の木造2階建て住宅を使った実大実験では、以下の結果が確認されています。

条件結果
震度7強相当の加振構造体・外壁ともに大きな損傷なし
複数回の震度7相当の加振構造耐力の低下は見られず、耐震等級3相当の性能を維持

また、実際の地震被害においても、次の傾向が報告されています。

・耐震等級3の住宅では、倒壊・半壊ゼロの事例がある
・制振装置を導入していた住宅では、損傷が極めて軽微
・同等級でも、設計・施工の差によって被害に大きな違いが出た

2016年の熊本地震では、耐震等級3を取得していた住宅の多くが軽微な被害にとどまり、居住継続が可能でした。一方、古い建築基準の家や、無資格施工の住宅に被害が集中していました。

つまり「価格」よりも「設計・施工の中身」が耐震性能を左右します。ローコスト住宅であっても、構造上の工夫や施工精度がしっかりしていれば、大地震にも耐えうる住まいを実現可能です。

単に価格やスペックで判断するのではなく、構造の考え方や施工会社の実績、使用されている建材など、本質的な部分に注目して選ぶことが、地震に強い家づくりのポイントです。

※参照:国土交通省「3.被害状況・被害要因等の分析」
※参照:国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」
※参考:14回の加振に耐えた制震性能|住宅用制震ユニット|住友ゴムのMIRAIE(ミライエ)

ローコスト住宅の耐震性をチェックする方法

耐震性の高い家を建てるには、価格だけに目を向けるのではなく、設計や施工の「中身」を見極めましょう。

ここでは、チェックしておきたい実践的なポイントを紹介します。

施工会社に確認すべきポイント(打ち合わせ時に聞く)自分で確認・判断できるポイント(事前準備や下調べ)
採用している工法の耐震特徴(在来工法・ツーバイフォーなど)採用工法の特徴を調べて、耐震性や過去の実績を確認する
使用する建材の耐震性(柱・梁・接合金物・耐力壁材・屋根材)使用されている建材の性能をカタログやネットで確認する
耐震補強や制振装置などのオプション対応が可能か過去にその施工会社が建てた住宅の耐震実績をネットで調べる
建物の構造設計方針(耐力壁の配置・構造計算の有無)建物の間取りや形状がシンプルで、重心バランスが良いか

こうした事前チェックを行うと、ローコスト住宅でも安心して暮らせる耐震性を持った住まいづくりができます。最近では、スマートフォンで使える簡易耐震診断アプリもありますので、セルフチェックから始めてみるのもおすすめです。

ローコスト住宅でも長期優良住宅対応は可能?

長期優良住宅とは、国が定めた基準を満たし「長く安心して暮らせる」と認定される住宅です。耐震性や省エネルギー性、維持管理・更新の容易性など、複数の項目を高水準でクリアする必要があります。

なかでも重視されるのが「耐震等級2以上の取得」です。これは「建築基準法レベル(等級1)の1.25倍の地震力に耐えられる」ことを示しており、災害時の避難所にも使われる公共建築物と同等レベルの耐震性とされています。

「そんな高い基準、ローコスト住宅じゃ無理そう…」と思われがちですが、実は工夫次第で取得可能です。たとえば以下のような工夫があります。

・間取りや形状をシンプルに保ち、バランスよく設計する
・壁の配置を工夫し、必要な耐力壁を確保する
・接合部に適切な金物を採用する
・構造計算を行い、耐震性を裏付ける

もちろん、申請費用がかかったり、継続的な維持管理が義務付けられていたりとデメリットも存在します。しかし、住宅ローン控除の優遇や固定資産税の軽減(戸建ては最大5年間)、中古市場での資産価値の維持といったメリットは魅力的です。

最初に「長期優良住宅対応を希望」と伝えれば、現実的な範囲でプランを調整してもらえる可能性があります。

\合わせて読みたい!/
長期優良住宅とは?メリットや建売と注文住宅の場合の申請方法の違いなどを徹底解説

まとめ

ローコスト住宅が、安さゆえに寿命が短く、耐震性が低いというイメージは、必ずしも正しくありません。地盤調査や構造計算、建材の選定など、要所を押さえれば、ローコスト住宅でも耐震等級3相当の住まいを手に入れられます。

コストを抑えながらも安心して暮らせる家づくりのために、耐震等級や構造計算の有無などをしっかり確認し、信頼できる施工会社を選びましょう。

この記事の担当:

豊栄建設家づくり編集部

家づくりのヒントや住まいの最新情報を分かりやすくご紹介。皆さまの理想の住まいづくりにお役立てください。

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